企業モデル

Enterprise Modelコンサルタントの業務は、主にお客様(この場合は企業になる)に対して、理想とする企業像を提案し、それを達成するために、何をどうやって実現していくかを明確にしていくことが重要であろうと考えています。そのためには、常に「理想とする企業像」が説明でき、それをどうやって達成するかの道程を設計しておくことが重要です。しかし、我々コンサルタントは、全ての業種・業界、さらには業務やビジネスプロセスにおいて専門であることはできません。ただ、最低限厳守すべきモデルというものは、存在するはずですし、活用することができれば、お客様への説得力が増すわけです。

私が利用しているのは、右図にある企業モデル (Enterprise Model) を常に頭に叩き込んで活動をしています。提案をする時、実際にプロジェクトを推進する時、問題を解析する時、自社内での業務を考慮する時、その他どんな時でもこの企業モデルが基本です。

実は、このモデルは1986年に構築・完成し、1987年にアメリカで初めて発表して大変好評でした。多くのコンサルタントからも評価され実際に利用しているコンサルタントも多いのが事実です。では、なぜこのモデルが評価されたのでしょうか。詳細を記述する前にまずはモデルの構築の歴史から説明しましょう。

Total Quality Management (TQM) とトヨタ自動車
1980年代のアメリカは、これまで君臨していた自動車やハイテクの業種が日本の企業に圧され、非常に危機的な状況でした。「Big Blue が日本に追い越される時」、「Big 3 が滅びる日」といった記事が新聞や雑誌を賑わせていました。説明は不要だとは思いますが、Big Blue とは IBM、Big 3 とは、Ford、General Motors、Cryslerの3社の事です。こうした企業はある種アメリカの誇りであり、絶対に世界一の座を譲ってはいけない企業だったのは周知の事実です。こうした企業が危機感をもったのは、膨れ上がったアメリカの日本に対する膨大な貿易赤字でした。IBM が圧倒的に強かったメインフレームが売れなくなってきた。Big 3 を猛追するトヨタ、日産、ホンダ。そうした環境下で、アメリカでは小手先の対策が打たれていました。輸入規制や関税増といった対策が国を挙げての対策でした。しかし、これに対して一石を投じたのが、今は知る人も少なくなりましたが、かの有名な「ヤングレポート」という当時ヒューレットパッカード会長が書いた政府向け日本企業に関する調査レポートでした。1985年に提出されたこのレポートには、日本では当たり前の事として扱われていた企業文化が詳細に渡って報告されていました。それは以下の4点だったと記憶しています。

  • 品質管理の徹底による商品価値の向上
  • トヨタ生産方式の活用による生産効率の向上
  • 改革ではなく改善の実施
  • 終身雇用による人的財産の徹底活用

各項目において詳細を説明することは避けますが、このレポートが提出された時、アメリカの企業は揃って日本から大量のコンサルタントを呼ぶようになりました。ただ、この時は、コンサルタントと言っても大学教授や会社の社長がほとんどでしたが。

さて、上記の4点が既に皆さんは気付いていると思いますが、品質管理、トヨタ生産方式、改善と所謂品質管理の用語が並んでいます。そこで、アメリカの多くの企業が、日本式品質管理を取り入れるようになりました。多くのコンサルタントアメリカへ行き、日本式品質管理を一種流行のように実施しだしました。しかし、当時の日本式品質管理は、マネージメントサイクル (Plan-Do-Check-Act) をベースにしたもので、企業全ての構成がこのマネージメントサイクルでモデル化されていました(トヨタ自動車がそうだった)。既に企業戦略論や企業戦術理論等が確立していたアメリカ企業ではどうしてもこれが受け入れられませんでした。実際には、日本の多くの教授や会社の役員等もモデル化にはマネージメントサイクルだけでは事足らずであることは気付いていましたが、モデル化よりも実践を重視していた日本企業ではモデル化すること自体はまったく問題ではなかったのです。

こうした背景のもと、企業戦略と戦術(戦略を実行する方法)とを分割して、さらにマネージメントサイクルを加えるたモデルができないだろうかという研究会が始まりました。と言ってもモデルが予想よりはるかに早く出来上がったので、この研究会は2週間程度で解散しましたが。モデルは、マーケティングの神様と呼ばれているフィリップ・コトラーのモデルから、内部環境と外部環境とが取り上げられました。コトラーは、企業戦略は、内部・外部環境をベースに立案され、それを実行すべき組織と業務を構築すべきであるとしています。これをモデル化することは簡単でした。さらに、業務という観点からマイケル・ポーターバリューチェーンの考え方を取り入れました。ポーターは、バリューチェーンが企業の根幹を形成していると説いています。さらにポーターの考え方をさらにエドワード・デミングがマネージメントサイクルとして説いていました。これらを総合的に図表化したのが上図であるわけです。即ち、全ての構成はアメリカの権威あるコンサルタントのモデルを適用しているわけですから、アメリカで受けるはずです。